おべんきょうノート

自分用です。

安政5年2月28日 松陰→久坂

著者である山口県教育会は『観月先生は普通小田村伊之助を指す、小田村は当時松本村観月河原に移住して居ったからである、然るにこの書簡は久坂宛に違いない』という。

 

 

阿月の貴書達し候 御壯志妙々 京師の事何如やらんと至極案じ申し候 桂小五郎來原に與ふる書にて西城決着の事之れを承り大愉快

阿月からの手紙が届きました。とても勇ましく素晴らしく思います。京都の件はどのようにすれば良いのだろうと、とても思案しています。桂小五郎が来原に送った手紙にて『西城決着』と、これを聞きとても嬉しく思います。

 

徳川と一橋派の抗争の決着

 

右にて愚考するに 天朝の正論と西城の正議と合體して天下の俗説を推し崩し、神州を維持すること方今の急務なり  天朝の御中興も征夷の御中興も此の辰なり

以上から考えると朝廷の正論と徳川の正義を合体して天下の俗説を押し崩し、日本を維持する事が今行うべき事でしょう。朝廷の復興も攘夷の復興もこの時であります。

 

天朝の正論を守り立て候事、征夷氏長久の妙計なり 此事桂と談じ給へ 桂も赤川淡水も上京に若くべからず 桂は奥羽行の積りとか申す事、是れは急務と覺え申さず

朝廷の正論を支える事、征夷大将軍の家系の妙策です。この事は桂と話し合いなさい。桂も赤川淡水も上京に及ばないように。桂は奥羽へ行くつもりとか言っているがこれは急務ではないでしょう。

 

京師へ人材を聚め公卿の弊習を【以下中文欠】竹島論公然上書に如くべからずと存じ候 松洞も同説なり 御申し談じ成さるべく候 

京都に人材を集め朝官の悪いしきたりを【以下中文欠】竹島(開墾)論は意見書で大っぴろげにしてはいけないと思います。松洞も同意見です。申して話し合いなさってください。


◯江帾・桂・櫻任藏・長原武などへ別に添書致さず候間、秀實御申合せ御紹介下さるべく候

◯江帾・桂・櫻任藏・長原武へ添え状は致しませんので、栄太郎と話し合わせてお伝えくださるようお願い致します。

 

◯江帾文虎若し西遊の思ひ立ちも御座候はば、秀實か若しくは老兄より有隣・清太へ御添書成さるべく候 松如へは吾樓自書あるべし 併し文虎此の節何如の状態に候や

(江帾春庵の忘れ形見である)江帾文虎が西へ遊学する気があるのなら栄太郎かもしくは貴方から有隣・清太へ添え状をなさるように。土屋(蕭海)へは五郎の署名があるはずです。しかし文虎はこのところどのような状態でしょうか。

 

◯墨夷を斬らんと欲するの三義士尚ほ獄に在り候や 尚ほ在らば少しく情を通じ置きたし 其の術傳馬丁囚獄石出帯刀へ行きて問ひても分るべし 又牢屋同心に田村金太郎と申すあり

◯米国人を斬ろうと願う三義士はまだ獄にいるのでしょうか。今もいるならば少しばかり内情を交わしておきたい。その術は伝馬町牢屋敷の牢屋奉行、石出帯刀を訪れて質問してもわかるでしょう。また牢屋同心に田村金太郎という者がおります。

 

此の人鍵役と云ひて五六人あり、佐々木何某筆頭なり 其の外姓名を忘る 金太郎に住きて様子を問ふべし 又傳馬町に源左衛門 これが尤妙 と申すものあり

この人は鍵役で(その役職は)五、六人おり、佐々木何とかが筆頭です。その他の姓名は忘れました。金太郎を訪問して様子を聞きなさい。また、伝馬町に源左衛門(これがまた素晴らしい)という者がおります。

 

囚士獄中より吏に對する時の駕固をかたぐ棒頭にて奇男子なり 是れに住きて問ふもよし 左候て金一方なりと託し書を送るべし

この囚人、獄中から役人に対応する時の駕籠を担ぐ棒頭で奇男子です。この者に訪問して問うのもいいでしょう。左のようにするなら金一方(封?)程度を渡して手紙を送りなさい。


復書は恐らくは得すまじ 是れは獄中の情あり、怒ることなかれ 鍵役 牢屋同心の内 當番の内に出獄を頼むに然るべき人物あるべし 源左衛門に問ふべし

返事はおそらく来ないでしょう。これは獄中(にいる者へ)の思いやりですので、怒るような事ではありません。鍵役(牢屋同心内)当番の中で出獄を頼むのに相応しい人物がいるはずです。源左衛門に聞いてください。


◯天下の事情世間の新聞奇書等松洞と御申合せ、力を極めて捜索し長井へ御見せ、世子へ差出し候策専要と存じ奉り候 世に奇士あらば松洞へ像させ足下傳をかき、世子の耳目を驚かし給へ

◯天下の事情、世間の新聞や奇書などを松洞と話し合い、全力でもって捜索し長井雅楽へ見せ、世子へ差し出した策が最も大切であると思いました。この世に奇士がいれば松洞に肖像画を描かせて貴方が伝を書き、世子の見聞に衝撃を与えたまえ。


二月二十八夜、松洞至り且つ談じ且つ書く

先日より月性法話に付き、塾中會を廢し童子皆赴ききかしむ 昨日法話終る 今日より詩經會初まる 山根 武次郎 生來る、生中々気魄あり、愛すべし

二月二十八夜、松洞が訪れて話しながら書く。

先日より月性が法話するにあたり、塾内で集まるのをやめ生徒皆そちらへ行かせています。昨日法話が終わりました。今日より詩経会が始まります。山根武次郎が来ました。中々気概があります。気にかける事。


村塾増築の議初まる 委細は瀨能まで申し遣はし置き候 此の節土砂搬運は皆塾童なり 雇人は一人もなし 大愉快、云うても盡期はなし 先々閣筆 ◯來原大いに妙 ◯周布 政之助 も亦妙
 觀月先生  座右     松陰囚奴

村塾の増築についての話し合いが始まりました。詳しくは瀨能(吉次郎)までお伝えしておきました。この頃土砂運搬は皆塾生がしています。雇い人は一人もいません。とても面白い、とは言っても期限はありません。先々閣筆。

◯来原はとても素晴らしい。◯周布政之助もまた素晴らしい。

 観月先生  座右     松陰囚奴