おべんきょうノート

自分用です。

安政6年10月6日 松陰→高杉

安政6年(1859年)10月6日

吉田松陰全集6コマ229、230

 

僕此度之災厄老兄江戸在アリシノミニテ大ニ仕合申候、御厚情幾久感銘仕候、急ニ御歸國トアレハ残念ナリ然共此間ノ様子父兄朋友へ御話下被候ハゝ又喜フヘシ是望外ノ大幸ナリ

僕のこの度の災難において、君が江戸にいたという事だけはとても幸運だった。君の厚情には深く強い感銘を受けた。急に帰国となったのが残念だが、僕と君が会った間の様子を父や兄、友人へ話してくれたらばまた嬉しい。この上ない幸福と言えよう。

 

〇爰ニ一ツノ御面倒之御願アリ 何卒小生心中御体認下被御計ヒ下被可候其事件ハ別符小林民治ノ一翰ナリ歸途京師へ御立ヨリ此符御届下被可候、鈴鹿・筑石兩人ハ小林ノ知己ナリ此事別帋ニ具ス

ここにひとつ、面倒をかけるが頼みがある。なにとぞ僕の心中を(己のように)感じてご配慮いただきたい。それは別添の小林民部の書簡の件だ。帰路、京都へ立ち寄りこの書簡を届けてほしい。鈴鹿、筑石の二人は小林の知己である。この事も別紙に揃えておく。


鈴鹿筑→鈴鹿連胤(筑前守)
鈴鹿石→その息子、石見守長存

 

〇口羽ノ病死ハ如何ニも痛哭ナリ諸友中小田村大ニ進歩且深足下知、與語ルヘシ杉藏學問サソ進ムナルベシ弟和作敏才學問も進ムヘシ傳之輔と三人獄在憐可、小生一件落着マテ待居レト御傳へ

口羽の病死は何とも痛ましく嘆かわしい。友人の中では小田村は大いに躍進するだろう。そして深く君を知る。共に語ると良い。杉蔵は学問もさぞ進んだ事に違いない、弟の和作もさとりが早く学問も進むだろう。伊藤伝之助と合わせて三人が獄にいるのは気の毒であるが、僕の一件が落ち着くまで待っていてくれと伝えてほしい。

 

實甫必進境有但才勝テ動キ易シ能々御添心下被可候、久保ハ不動心吏事練達ナラン徳民平生負不、彌二・作間後進中属望ノものナリ鼓舞シ玉へ

實甫(久坂)は必ず学問の境地へと到るだろう。ただ才能が優れるが故に軽挙になりがちであるから、充分に念を入れて配慮するように。久保は心変わらず役人を極めるのだろう。徳民は平凡に相応しくない。弥二・作間は大器晩成の期待がある者だ、奮い立たせるように。

 

福原又四郎必進境有變シハスマシ岡部富太亦用足輕佻ヲ以テ是ヲ拾ルハ偏ナリ、栄太と天野ハ同志中ニても別ものナリ老兄深ク顧ミテ呉玉へ天野少シク才ヲ負ミ勉強セズ是惜可

福原又四郎は必ず進歩があり、変わる事はないだろう。岡部富太郎もまた登用するに足りる、軽はずみを理由に彼を捨てるのは不十分だ。栄太と天野は同志の中でも別者である。君も深く顧みてくれたまえ。天野はいささか才能に驕り勉強せず、惜しいことだ。

 

榮太ノ心中誠ニ憐可、渠自曰、復慈母泣眼見忍不矣、其言甚悲可也而して又才智アリ、唯小生一面シテ志ヲ言ハサルこと残念ナリ此間多少血涙ノ談アリ吾榮太愛昔日如、榮太吾ノ愛スル所トナルハ却テ禍根タルヲ洞視シテ吾ヲ疎セント欲、吾深ク榮太カ心事ヲ知レとも榮太遂ニ棄難シ旧臘廿四夜コウセンヲ一杯呑テ榮太ト別レシハ永訣カモ知不也

栄太の心中にはとても同情する。彼が言うに「また母の泣く姿を見るに耐えない」と。その言葉(を言う事は)、きっととても悲しんだのだろう。そうしてやはり才智がある。ただ僕と対面して志を交わせなかった事、残念だ。この間少しばかり激情を伴った会話をした。僕が栄太を気に掛けていたのが過ぎた日のようだ。栄太が僕に気に入られるのは却って災いの元になると洞察して、僕に疎ませようとする。僕は栄太の心中を深く察しているが、ついに彼を切り捨てる事は出来なかった。昨年十二月二十四日の夜、香煎を一杯飲んで別れたその日が栄太との永訣になるのかもしれない。

 

〇同志中ノ事時々胸中ヲ往來シテ忘レ難シ然とも僕大ニ趣向ヲカヘタ、タトヘ歸國スルことアリテモ同志ト同志ニ非ズ唯老兄ニ一言シ度事アルノミナリしかし諸友も一言スルト又吾ニ同スルカモ知レ申不候一咲々々

〇同志達の事は時々胸中に浮かび来るから、忘れるのは難しい。それでも僕は大いに趣向を変えた。例え帰国する事があってもあの頃の同志とは同志ではなく、ただ君に一言伝えたい事があるだけだ。しかし他の友人にも一言すると、また僕に賛成するかもしれないから言わないでおこう。一笑一笑。

 

〇老兄歸國ニ付別ニ言フことナシ且短景多用何分行届申不、只願クハ愚兄へ御面會小生安全ノ事御申傳偏ニ願上奉候也

〇君は帰国の身であるから特に伝える事はない。やるべき事は多く、すぐに日は過ぎてしまうから、いくつか細かいところまでは行き届かないだろう。ただ願わくば我が兄へ面会し、僕は全く平穏であるという申し伝えをひとえにお願いしたい。

 

十月七日

松陰拜
高杉暢夫兄足下 

御道中寒冷御自重専一に存奉候

十月七日
松陰拝
高杉暢夫兄足下

道中寒くなり冷ややかであるから、病気や怪我に気を付けるよう。自愛するように。