おべんきょうノート

自分用です。

元治元年7月下旬 高杉→杉梅太郎

元治元年7月下旬

高杉 生家座敷牢

文化遺産オンライン高杉晋作書簡

 

七月十三日之尊翰相届奉拝誦候、如仰忽時勢変動承候得ハ先日京城一戦有之候之由実情実説承知不得仕候、幽室黙座乍走視飛夢寐独上不聞罷居候

七月十三日の手紙が届き拝読致しました。仰せのごとくたちまち時勢が変動し、先日は京都で戦があったと聞きましたが、実際の内容、実話なのかはわかりません。幽室に黙然と座りながら心は京へ飛び、眠っては夢を見てまた起きるのみで、何も把握できないでおります。

 

世情の風説ニハ一秋湖兄・宍翁など忠死と申事如何事ニ候哉、兎角偽説多き世中故疑惑仕候、

世間の噂によれば秋湖兄(久坂義助)・宍翁(宍戸九郎兵衛)などが忠死したという事ですが、一体どういう事なのですか?とにかく誤報が多い世の中ですので信用出来ずにいます。

 

此節ハ毎夜秋湖兄ヲ夢ニ見候、旁以辺ニ懸念仕候、何卒実情御承知之処早々御報知被下候様偏ニ奉願上候

近頃は毎晩秋湖兄を夢に見ます。ですのでとても気掛かりでなりません。どうか噂の真偽についてご存知ならば直ちにお知らせくださりますよう、心からお願い申上げます。

 

素ヨリ今日之時勢戦争いつ有之事ニ候共其始末分明ニ有之度奉存候、

もとより今日の時勢では、戦がいつ起こるにせよその顛末は明らかにしておきたく思っています。

 

戦争の始ハ何等之処より起り終ハ何等之処ニて引取ニ相成シと申始末承度御座候

戦がどのような原因で起こり、その結末はどのような終着であったかをお伺いしたいのです。

 

戦の勝敗鄙事所謂時の運ニて楠公ト雖トモ敗軍被致事と御座候、敗軍なれハ孔明の弾琴勝なれハ乗愉快破大事ぬ様仕度事ニ存候、

戦の勝敗を決めるのは所謂時の運であり、例え楠木正成であっても敗軍となされるのです。敗軍となれば、敵軍を前に城を開け放し悠然と琴を弾いた孔明の策を、勝ちであれば浮ついた気持ちで大手柄を無駄にしてしまわないようにしたく思います。

 

孔子能言不能行豈迪困奴所能知也、不懼士気不侮小敵小事可慎大事不可驚、古今一理士道一貫申添候事ニ御座候、

孔子の「弁舌がたくみで行動力に乏しい者は道を誤る」との言葉はよく知られています。士気差し控えず、寡軍侮らず、小事を慎重にし大事には動じない。これは古今に共通するひとつの理であり、武士道に一貫して言い継がれることです。

 

回先生遺書落手候、毎事御面倒之儀御頼仕奉恐入候、先ハ御尊大人御来杖被下候処其節有故御相対御断申上候、

回(吉田松陰)先生の遺書をお受け取りしました。いつもご面倒をお願いし、誠に申し訳ございません。先日は足をお運びくださったにも関わらず、訳があってご面会をお断り申上げました。

 

公意之趣被御仰越候様奉頼候、御手翰の御様子にてハ余程御迫切御心中御尤之事ニ御座候得共春風花鳥不可捨候、

公意の件につきましては仰るようにお頼み致します。お手紙の様子では事態はとても切迫しています。ご心中のお苦しみはもっともですが、春に吹く風は花鳥を見捨てないものです。

 

父子恩情不可忘可死則死可生則生、之大丈夫気象釈然法談いつまて被下候

父子の恩情を忘れず、死すべき時は死に、生きるべき時は生きる。この立派な気質を理解するには説法からいつでも学べるのです。

 

不堪緩急、同一筆飛走如此  西海一狂生東行 拝白

差し迫った状況に堪らず筆を走らせました。 西海一狂生東行 拝白

 

ニ白、残暑難去朝夕冷気是病の所由来御用心専要ニ奉存候、何卒時勢御存知早々奉待候

追伸、残暑が去っていないというのに朝夕は冷え込み、体調も崩しやすくなっておりますのでご用心下さい。どうぞ今の時勢についてご存知のことを一刻も早くお知らせ頂けますよう、お待ち申し上げております。