おべんきょうノート

自分用です。

安政6年7月9日頃 松陰→高杉

安政6年(1859年)7月9日頃

吉田松陰全集 コマ210、211

松陰 江戸獄

高杉 江戸

 

評定所ノ様子大略申上候問ヶ條二ツ、一曰、辰年冬梅田源次郎長門へ下向之節密ニ面會何ヲ談候哉余曰談所無タゝ禪ヲ學べナト學問ノ事ヲ談タル迄ナリ

評定所での様子を大まかに伝える。問いは二つ、一つは「辰年の冬、梅田源次郎(雲浜)が長門へ下向する際密かに面会をし何を話したのか」私は「やましい事はございません。ただ禅を学べなど学問の事を話した程度でございます」と答えた。

 

奉行曰然ラハ何故蟄居中故ラニ面會セシヤ不審也余曰御不審御尤也吾も源二心中ヲ知る能不、但源二曰余が長門へ來ルハ全ク義卿丑年余が京萬ヲ尋來リシゟ追々長門人ヘノ因ミ出来さるニヨルナレハ基本ヲ思テ來問スル也別二談スヘキことナシ故二寅モ亦辞セズして面會スルナリ
奉行人は「ならば何故、謹慎中殊更に面会しているのか。疑わしい」と言う。私は「嫌疑がかかるのも当然の事でしょう。私も源次郎の心中は知れません。ただし源次郎は『私が長門へ来たのは、義卿(松陰)が嘉永六年に京の仮住まいを訪ねて来たからで、後に長州人との縁になればと思い訪ねた。特別話すべき事はない』と。だから私もまた挨拶無く面会した」と答えた。

 

二曰、     御所内へ落文アリ其手跡汝ニ似たりと源二其外申出ルものアリ覺之有哉、余曰斷して覺之無寅著狂夫之言・對策・時勢論・大義義等忌諱ニ觸ルゝモノ少カラズ若是等ノ作他人携去テ       御所内ニ投セハ心底ニ任不レルトモ吾敢テ落文ヲナサズ

二つ目は「御所内に文が落ちていた。その筆跡がお前に似ていると源次郎やその他の者が申しているが、覚えはあるか?」私は「断じてこのような覚えはありません。私の書いたものは、狂夫の言・封策・時勢論・大義を議す等、不興を買うものが少なくありません。もしこれらの作品を誰かが持ち去って、御所内へ投げればどうなるか。私は敢えて文を落としたりしません」と答えた。

 

奉行曰汝上京ハセヌカ、余曰吾一室之外會テ隣家へたも往不是萩中萬耳萬目掩可不也、何乃上京センヤ曰憂國ノ餘人ヲシテ落文セシムル等のコトハナキカ余曰寅所見大ニ然不、試ニ時勢論ヲ見玉へ寅明カニ      明天子・賢將軍・忠侯伯ナシ得サルヲ知ル故ニ自ラ天下ノ事ヲナサント欲ス豈落文ヲ以テ        明天子ニ難ヲ責ンヤ此事寅必為不、抑落文ハ何等ノ文ソヤ

奉行人は「お前は上京はしたか」と言う。「私は一度も部屋の外や隣家へも行っておりません。萩内にはたくさんの目があり耳もある、包み隠す事など出来やしないでしょう。どのように上京するというのでしょう」と答えた。奉行人は「国を憂う気持ちがあまり余って、人を介して落とし文をした等はないか」と言われたので、私は「私の見地からは大いに外れています。試しに時勢論を見るとよいでしょう。明らかに明天子・賢将軍・忠侯伯の事を書いており、故に自らこの国事に携わりたいと願ったのです。どうして落とし文をもって天子にその国事の欠点を責めるというのか。私はそのような事は絶対にしません。そもそもその文はどのような文なのですか」と返した。

 

奉行初數行を讀出ス余曰寅ノ為ス所ニ非ス若シ寅カ手書ヲ得ント欲セハ藍色ノ縦横ナル手板ニ楷書ニ書タリ其他ハ寅手録非也、落文ハ如何ナル紙ゾ奉行曰竪ノ繼立帋ナリ、寅曰非也々々

奉行人は初めの数行を読み出した。私は「私がした事ではありません。もし私が手書きをしようと思ったならば、藍色の縦横の手板に楷書で書いたと思います。その他は私の書き残したものではございません。落とし文はどんな紙を使っているのですか」奉行人は「縦の継ぎ立て紙だ」と、私は「私ではありません」と言った。

 

奉行端改曰赤根武人ハ知ルカ余曰熟知ス彼少年ノ時會テ僕家ニ來寓ス奉行曰武人皆汝ガ策ヲ知ルカ予曰く恐クハ一二ヲ知テ八九ヲ知ラズ武人ハ源二ノ塾ニ在リ源二ノ捕ラルゝ御不審ナキニ因テ歸國ヲ免セラル時ニ萩來、半日談ス直様亡命上京ス

奉行人は話題を改めた。「赤禰武人は知っているか」私は「とてもよく知っています。彼はかつて少年の頃、私の家に来て仮住まいをしていました」と。奉行人は「武人はお前の策を全て知っているのか」、私は「恐らくは一、二は知っているが八、九は知らないでしょう。武人は源次郎の塾に在籍しており、源次郎が捕らえられた際、不審な点がなかったので帰国を免ぜられました。その時に萩に来て半日話し、その後直様脱藩し上京しました」と答えた。

 

奉行曰武人何故上京スル余曰、其師縛就、弟子亡命上京、其志問不、知可也、奉行猶余援梅田党入欲、余慨然曰、源二亦奇士、寅相知浅非、然源二妄自尊大、人視小兒如、寅心甚平不、故源二事同與欲不、寅則別爲有也、

奉行人、「武人は何故上京をしたのか」私は「師が捕縛され弟子が亡命して上京する事、その志は問わずとも理解できましょう」と答えた。奉行人は尚私を引っ張り上げて梅田の仲間に入れようとする。私は憮然とした態度で「源次郎もまた並外れた器量を持つ者で、私は彼をよく知っております。けれども源次郎は勝手気儘で尊大であり、人を見る目は幼い。私の心も乱される事が多く、故に源次郎と同じ方法でとは思いません。私は別の方法で為します」と答えた。

 

因詳丑寅以来事陳、奉行亦耳傾曰、是鞫問及所非也、然汝一箇心赤、汝爲細聽、縷述厭不也、余乃感謝再拜、因誦應接書諳、逐一辯駁、奉行亦色動曰、汝蟄居國事詳知怪可也、

嘉永六年からの私の詳細により弁明した。奉行人はまた耳を傾けて「これは鞫問ではない。しかしお前の持つひとつの赤心を隅々まで聴こう、詳しく述べよ」と。私はとても感謝し、因って応接書を暗唱し、逐一を反論した。奉行人はまた顔色を変えて言う。「お前は謹慎しながらも時勢を詳しく知っている、怪しいところだ」と。

 

余曰、寅親戚讀書憂國者三數人有、常寅志感、寅爲百方探索、以報知致、是寅國事以知所也、寅死罪ニ有、皆自首當、但他人連及、心甚之惧、敢陳不也、奉行溫慰曰、是大罪無也、之陳妨不、余謂奉行亦人心有、吾欺見可、

「私の親戚には書が読め国を憂う者が三名程おり、いつも我が志に共感し、私の為にあらゆる方面を調べ、得た知識を報告する。そうして私は時勢を知るのです。私は死にあたる罪にあり、全てを自白すると関係の無い他者へも関連して罪が及んでしまうという事を懸念しています。何も申しません」と私は言った。奉行人は宥めるように「それは大罪ではないから言わない理由にはならぬ」と言った。私は『奉行人もまた人の心がある。例え欺かれていても構わない』と思った。

 

因玄瑞・清太二人名擧、奉行亦甚詰不也、已而奉行問曰、謂所死罪二者何也、

よって久坂玄瑞・久保清太郎の名前を挙げる。奉行人はまた激しく内容を詰める事はなく、その後で問うた。「所謂、死にあたる罪とは何か」

 

余曰當今之勢          天子將軍、列諸侯與、萬々做得不、寅明其做得不知、故自做欲、故再書大原三位致、下吾藩西請、三位果吾藩下、則三位與謀諌吾公論欲、三位確報無、吾其爲有足不疑、會間部侯上京乱朝廷惑聞、同志連判、上京候詰欲、二事果未、藩命寅捕獄下矣、

私は「最近の勢いは天皇、天子、将軍とその臣下では充分ではないと思います。私は明確に己がせねばならない事を知り、行動しようと思いました。だから再び書を取り大原三位下向策を書き、(公家 大原重徳を)我が藩に西へ下らせる事の必要性を説きました。大原三位がこれを良しとすれば、彼と計画し我が藩主を論じ諌めたいと思いました。大原三位からの報せはありませんでした。私はこの策に足りないものを考えました。たまたま間部(詮勝)候が上京し、朝廷を惑わせ乱そうといていると聞き、同志が署名、血判した連判状を持って上京し、間部候を詰問したいと思いました。この二つの事は未だ果たせぬまま、藩命により捕縛され入獄しました」

 

是於坐罷、後再余召、奉行曰、汝間部詰欲、々々聽不、之刃將歟、余曰事圖可未也、奉行曰、汝心誠國爲、然間部大官、汝之刃欲、大膽甚矣、覺悟シロ吟味中揚屋入ヲ申付る

ここにおいて一度退出させ、後に再び私を呼ぶ。奉行人は「お前は間部候を詰問したいと言った。彼が受け入れなければきっと斬り殺すつもりだったろう」私は「計画は未だ為されていません」と。奉行人は「お前の心は誠に国の為にある、けれども間部殿は高官である。お前は高官を斬り殺そうとしており、なんと大胆で酷いことではないか。覚悟せよ、念入りに調べ上げ揚屋入りを申し付けてやる」

 

九日ノ吟味大略此如、只匆々中余が口陳僅カニ十ノ四五ニして役人悉ク書留もせず孰レ後日委細ノ究明アラン、委細ニ陳白セハ余が死後委細ノ口書天下ニ流傅スベシ其節御覧下被可候、

九日の聴取の大筋はこの通り。ただ慌ただしい中私の弁論は僅か十四、五であり、役人は全てを書き留めもしなかった。いずれ後日、詳細の追求があるだろう。その詳細を言えば私の死後に詳細の口書きが出来、それを世に広めて示してほしい。その時に見てくださるよう頼みたい。

 

奉行三人皆其人知不、一人ハ石谷因幡守ナラン◯今日ノ議論三アリ奉行若聽ヲ垂テ天下ノ大計當今ノ急務ヲ弁知し一二の措置ヲナサハ吾死シテ光アリ、若一二ノ措置ヲナス能ハズ吾心赤ヲ諒シ一死ヲ免セハ吾生テ名アリ、若シ又酷烈ノ措置ニ出て妄リニ親戚朋友ニ連及セハ吾言フニ忍ヒズとも亦昇平ノ惰氣ヲ鼓舞スルニ足ル皆妙

奉行人の三名は皆見知らぬ者。一人は石谷因幡守だろう。○今日の議論は三つ。奉行人がもし耳を向け天下の壮大な計画や近頃の急務に関し才知ある弁を述べ、一、二の行動を為せずとも我が心は誠の真実であり、一死を免れれば私は生きて誉れあり。もしまた極めて厳しい行動に出、妄想にかられ親戚や友人を巻き込めば、私は言葉を発せずともまた平和の世に怠けた彼らを奮い立たせられるだろう。皆優れている