映画『ジョーカー』
(出典:http://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/)
この映画は二面性があり、アーサーとジョーカー、金持ちと貧乏人、善悪、白黒など、二者択一表現が多いバットマン作品の「らしさ」が窺えます。
個人的には前評判でよく作品名を出されていたタクシードライバーよりはキングオブコメディやダンサー・イン・ザ・ダークならぬコメディアン・イン・ザ・ダークに感じました。
チャップリンの「Life is a tragedy when seen in close-up, but a comedy in long-shot.」の言葉のように、表と裏を交互に見せる作品でした。他人が時勢が運命がこれでも笑えるのかと試すように不幸がアーサーを襲います。アーサーはチャップリンにはなれませんでした。
語ると無駄に長ったらしくなるので、気になったシーンをピックアップして私の感想とします。
↓以下ネタバレがあります
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
・不良少年達に仕事で使っていた看板を奪われ、追いかけた末にその看板をぶち当てられる(その後蹴られる)
これは冒頭のシーンですが、作中で一番喜劇と想像しやすいシーンだと思います。鑑賞中は「まだ始まって5分程度だけど最後まで観れるかな…」となった私ですがよくよく考えたらコメディーじゃん、と。例えば不良少年達がコミカルなキャラクターだったら?看板をぶつけられて転ぶピエロの頭上に星が回っていたら?
笑ってたかもしれません。
・コメディアンになりたいという漠然とした夢はあるものの、人とは笑いのツボが絶望的に違っている
才能がない(絶望)他コメディアンのネタを聞くとどうやら少し下品なネタじゃないと駄目みたいですが、彼は言えたんでしょうか。言えていてもそれは笑えないネタだったと想像出来ます。
笑わせる存在ではなく笑われる存在にしかなれないアーサー。漫才コンビなら良いボケ役になれたかもしれません。
彼がコメディアンを目指す大きな理由は、人を笑顔にしたいではなく、人に笑顔を向けられたいという気持ちなのでは(いつも僕を邪険にするという台詞などから)
自分の優しさに飢えた人生を一発逆転させるものがコメディアンという夢なんだと思いました。だからといって努力をしているかと聞かれたら、そうでもなく成功する自分を妄想するのみです(それがうだつの上がらない自分自身への慰みにもなっている)
・職場で同僚に都合の良い証言をされ、結果クビになる
寂しさからくる優しさと弱さから、なすりつけられやすいアーサー。
・公共バスで前の席の子供をベロベロバーとあやしていると子供の母親から「構わないで」と忠告を受ける
子供の母親からすれば自衛行為。
・持病の笑い癖が出てしまい、証券会社の社員3名に因縁を付けられ暴行を受ける
この時アーサーは反射的に3名を銃殺。この(結果として)成功体験で彼は排除を覚え、人生から転がり落ちていきます。
この映画は階段を必死に駆け上がっていたり、殺人を犯すほど足取りが軽くなったり、泣きそうな顔をして笑っていたり、あべこべな表現がとても喜劇で素敵。
・子持ちのガールフレンド
君だけは本物だと思ってた()私は鑑賞しながら誰か彼の手を握ったり背中をさすってあげてほしいと思っていて、母のお見舞いの時に彼女がアーサーの背中をさすっていたので救われたんだけど、まさか妄想の産物とは。
私は監督と脚本家の術中にはまりまくってますね。
・市長候補者に顔面を殴られる
市長候補者からすれば息子に危害を加えそうな不審者だった。
・病気で身体の弱い母も頼りにしているのは自分ではない
これまで彼が自分の本当の過去を知る事はなかったのは、母の愛だったのかもしれないし保身だったのかもしれないし。でも結果的に裏切られた形になってしまった。
虚無なら何も生まれないのに、小さな希望はより大きな絶望に変貌するのだとわかりました。
・作中、何度か銃(手で銃ポーズをとる時もある)自殺を真似るシーンがある
アーサーとジョーカーの切り替え(二重人格というわけではない)、フロイトの理想化と脱価値化を繰り返している様子なのかな。
そしてメメントモリからなる。その意味は「死を想え」だけれども、以下の意味合いが強いと感じる。
「食べ、飲め、そして陽気になろう。我々は明日死ぬのだから(旧約聖書 イザヤ書)」「明日のことはできるだけ信用せず、その日の花を摘め(詩人ホラティウス)」
・薄暗く灰色から始まった物語は後半になるにつれて光がまばゆくなり最終的には真っ白へ
彼の精神は解放され、舞台へ上がった。the ENDのフォントといいコミカルな動きといい『喜劇』として締めくくられる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
↑ここまでネタバレしました
ジョーカーの映画なので、普通の人間が最終的にジョーカーになるという結末は皆分かりきっている状態。
だから「見様によっては喜劇」になり得るのかもしれない。それは究極の客観視で、己とは別次元の事だから笑えるのかもしれない。
鑑賞後、ほとばしるパトスで描いたジョーカーをpixivにアップしました。
https://www.pixiv.net/artworks/77111744
30分程度で描き終えたものだけど満足しています。アーサーは精神がジョーカーに近づく度に目がとても綺麗になっていくのでした。
1度目は素直に彼に心を寄せて鑑賞をしたので、次は出来る限り喜劇の視点でもう一度観たいと思いました。